読者の皆様、
お元気お過ごしでしょうか?
14日にベートーヴェンの第九交響曲を演奏しました、普通ですと14日にメ
ールマガジンを最終チェックして15日に間に合うように発行するのですが、
さすがに第九の本番前にコンピューターでメールマガジンを書く気持ちの余裕
はなく、少々発行が遅れました。
私にとって年初はどういう分けか難曲続きです。
第九以外にもう1曲、2月の始めの定期演奏会でコダーイ作曲「マロシュセー
ク舞曲」(Marosszeker
Taenze)という曲を演奏します。初めて演奏する曲で、
今まで残念ながら聞いたこともありませんでした。なぜ難曲か、と申しますと、
オーボエのソロは8分の6拍子。オーケストラと指揮者は8分の4拍子なので
す。6拍子を4つ振りにされると、合わせる事に集中してしまいます。そうす
ると音楽に専念しづらいわけです。この11小節のパッセージも私にとって最
近の毎日の課題です。
まだあるのです。次のプレミエにヘンデルのオペラ「ユリウス・シーザー」と
いう曲が来ます。この曲は演奏するところは少ないのですが、序曲に16分音
符が並んでいるアレグロがあります。ファースト・ヴァイオリンとほとんどが
ユニゾンで16分音符は全部タンギング。前にメールマガジンでご紹介したマ
イヤーのヘンデルのCDの様に楽々と演奏したいものですが・・・・・・!
(マイヤーが演奏しているこのオペラの抜粋はアリアの歌のパートをマイヤー
自身が編曲し、演奏しています。私にとって難しいのはこのCDに無い、序曲
です。)
先週は春一番が吹き荒れました。ノルウェイ沖で貨物船が座礁して、オイルの
流失が心配されています。北ドイツでは走っていたトラックがアウトバーンで
風のために横転するという事故もいくつかありました。この嵐を「フリッツ」
と名づけられています。
サッカーチーム・リアル・マドリッド所属のベッカム選手がくびになりました。
高い契約料で選手を雇い入れている割にタイトルが取れないでいるチームはイ
ギリス人ベッカムのほか、ロナルドに対しても処置を検討しているそうです。
2人を日本へ呼べれば日本のプロチーム、サッカーを盛り上げるチャンスです
が・・・。
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■ ブレーマーハーフェンの氷がスキー場に
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読者の皆様は私が住んでいる所がドイツのブレーマーハーフェンであることは
ご存知だと思います。ブレーマーハーフェンは港町です。港には貨物船が運ぶ
大きな鉄で出来た箱、コンテナや世界中に輸出されるドイツ車が、また日本か
ら来たトヨタ、ホンダ、三菱、ダイハツなどの新車が並んでいます。造船所も
あり、有名な客船の改修をよく請け負っています。それから、北海の魚を下ろ
す漁港でもあります。
漁港ですから魚が下ろされるとすぐせりにかけられます。発泡スチロールの箱
に詰められてドイツ全国にこのブレーマーハーフェンから出荷されます。その
際に大量の氷が必要となり、氷を作る大型の機械も整備されています。この氷
を暖冬で雪の無いビアトロン会場に送られました。ビアトロンが行われている
のはチューリンゲン地方のオーバーホーフという所です。私の記憶に間違いな
ければ去年は大雪で雪下ろしが大変だった場所です。ブレーマーハーフェンの
漁港の氷は今までに室内スキー場に使われたりしていたそうです。
色々な氷の使い方がある様ですすが、どなたか壊れたオーボエのリードの使い
道を考えてお知らせ下さいな!
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■ ドイツの景気、世界の動き
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フランクフルトのドイツ株式市場DAXでは6年ぶりの最高値を更新していま
す。去年2006年のドイツでの経済成長率が2.5パーセント。失業者数が
60万人減少。2007年度国家予算の赤字が2パーセントで5年ぶりにEU
の設定する枠に到達。インフレが3.8パーセント。
これが主な数字で、インフレ率から見て、ヨーロッパ中央銀行の金利値上げ気
配がささやかれています。金利が上がるとまたユーロの貨幣価値が上がりだす
可能性があります。2006年は休日が2005年より2日多く、もし、この
2日、ドイツが稼動していたら経済成長率は2.7パーセントなんだそうです。
インフレに関してはエネルギー価格の上昇が大きかったのですが、現在は暖冬
と2007年の世界的な経済成長の鈍化予想で原油価格がずいぶん下がりまし
た。産油国で戦争さえ無ければ去年のような石油価格の高騰は無いと期待しま
すが、ブッシュは2万1千人の兵士をイラクに送り込むことを10日正式に発
表しています。
イラクに関しては、年末にサダム・フセイン処刑でドイツでは特別テレビ番組
が組まれ、現在のイラクの状況を報道していました。番組によりますと、自爆
テロが収まらないのは事実ですが、イラクの経済は安定の方向に向かっており、
寝ているところにいきなりしょっぴかれるようなフセイン時代には戻りたくな
い、という意見と、国をめちゃめちゃにしたブッシュに対する怒りが入り混じ
っているインタビューが印象的でした。
では、長期的に見れば正常化に向かっているイラクに、アメリカがどうして更
に軍隊を派遣するか、と勘ぐりたくなります。これは、イランとシリアへの牽
制とイスラエルへの応援では、と疑りたくなります。
また去年の議会選挙で敗北したブッシュ政権は、足元を固める必要があります。
彼の足元といえばテキサスです。ブッシュはイラクでドイツ、フランス、ロシ
アの持っていた製油発掘の利権を強奪しました。そのテキサスの富豪たちに儲
けさせる事がブッシュの足元固めか、と思います。国民全体の支持が低下して
いる中で選挙区から見捨てられればブッシュも身の破滅ですからね。安全にア
メリカの企業がイラクで活動するのを守る為の派兵、というのは保身の為と解
釈しても良いのでは・・・・・。そのアメリカ企業とはもちろんテキサスの石
油関係の会社です。アメリカでは野党がこの派兵に対して反対運動を起こし、
資金の凍結をたくらんでいます。ブッシュは既に力を失って、ユダヤ人とテキ
サスの富豪の力に抑えられているという見方も出来るかもしれません。どうも
醜きアメリカの政治ですが、日本の阿部首相、現在ヨーロッパ訪問中です。美
しき日本作りに頑張って頂きたいと思います。
ロシアはロシアで兄弟国・ベラルーシとガス価格問題でもめています。ベラル
ーシはそれに対抗してベラルーシを通過しているロシア産・ヨーロッパ向けの
石油のパイプラインを止めてしまうという措置に出ました。一応この措置は1
月10に解除されていますが、サハリン2の問題にしてもロシアはエネルギー
収入に関して非常に強引です。かつて物作りの日本だったはずですが、ソニー
は不良充電池問題が出た時に独自で原因を突き止める能力がなかったり、今回
の不二家が期限が切れた原料で製品を生産していたりで残念な事が続いていま
す。エネルギー確保で世界が躍起になっている中、海外依存率ほぼ100パー
セントの日本も何か新しい技術で(トヨタ自動車はハイブリット・エンジンで
好調ですね)世界をあっと言わせて欲しいものです。
ヨーロッパで核エネルギーを廃止する政策を取ってきたドイツも政策転換を考
えるかもしれません。今年の密かな株式のブームは従ってウランなのだそうで
す。
日本の外交で現在一番大きな問題は北朝鮮だと思いますが、残念ながらドイツ
での北朝鮮に関する問題はニュースが入るくらいで、ドイツの政治課題には上
っておりません。
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■ 11月28日にエアフルトで行われたベートーヴェン第九
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去年の11月28日にチューリンゲン州のエアフルトでベートーヴェン作曲交
響曲第九番が演奏されました。120名のチューリンゲン州から集った合唱の
メンバー、国際的な歌手、オーケストラの楽員はドイツ中から160名が集り
演奏されました。
この演奏会はチューリンゲン州の文化予算削減に伴い人員カットの政策に対す
るプロテストでした。ブレーマーハーフェンのオーケストラからの参加者はい
ませんでしたがドイツ中のオーケストラから署名が集り、マスコミ、聴衆の援
助も功を奏し、2009年までの人員凍結にこぎつけました。
2009年以降がどうなるかはまだ分かりませんが、現在の形で存続出来ると
嬉しいですね。
ブレーマーハーフェンは11月14日にこの第九がプログラムに載りました。
ソロ・オーボエ奏者にとっては体力とコントロールが要求される曲で、年末か
らロングトーンの練習を増やし、リードは新しいはりの強いものではなく、楽
に演奏できるように吹き込み調整しました。幸い演奏会は1回だけなので、リ
ードがばてる事を気にする必要が無かったのが幸いでした。
さて、この交響曲「第九」ですが、皆さんは去年の夏「バルトの楽園」という
映画をご覧になりましたか? 残念ながら私は見損なってしまったのです。丁
度去年の夏に日本にいらしたブレーメン日独協会・会長ご夫妻がこの映画を見
て、ハンカチ、ちり紙無しでは見ていられない、非常に感動できる映画であっ
た、と絶賛しておりました。この映画は第1次世界大戦中、日本でのドイツ人
捕虜収容所で第九の日本初演をする過程を記した映画です。徳島県鳴門市には
現在でもドイツ記念館としてその収容所跡が残されております。初演したとい
っても全ての楽器が揃っていたわけではありません。まず、楽器作りからスタ
ートしているのです。ですから2回のオーケストラ練習ーゲネプロー本番、と
いうブレーマーハーフェンでの演奏会とは苦労が比較になりません。ソリスト
も兵隊ですから女性がいません。全て男性での演奏だったそうです。
皆さんもご存知だと思いますが、ベートーヴェンが最後に作ったこの第9を初
演した時は既に耳が聞こえなかったのです。1時間強のこの大交響曲を耳が聞
こえないで完成し、リハーサルをし、演奏会を指揮した。但し、副指揮者が横
にいた、ということですが、彼のこの曲に対する熱意は相当なものであったと
想像されます。耳が聞こえず初演での熱狂的な聴衆の拍手にも気がつかなかっ
たベートヴェンをアルト歌手が彼を聴衆の方に振り向かせた、という逸話があ
ります。
実はこの交響曲は対話形式になっています。自己流に解釈しますと、第1楽章
でリヒャルト・シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラ」の冒頭のような生
物誕生を思わせる静けさから成長していく様子。第2楽章ではティンパニーの
大連打(ハイドンの交響曲「太鼓連打」以来のティンパニーの大活躍)とオー
ボエの長いソロのある(テーマの後の長い長いAの音をセカンド奏者に受け渡
して手伝ってもらいます。ただ、セカンドもそのAが始まった後9小節目にオ
クターブ下を演奏しなければいけません。私が長い間彼に私のパートを託した
ままなかなか演奏を再会しなかったものですから、セカンド奏者に、いつ入っ
てきてくれるのかやきもきした、と言われたことがあります。)生を鼓舞して
いる様子。田園交響曲のような穏やかな第三楽章。(転ぶことで有名なホルン
のソロがありますが、どういう訳かこのソロ、4番奏者に割り当てられている
のです。普段はほとんどソロを演奏する事の無いホルンの4番吹きがいきなり
伴奏無しの大ソロをまかされて手に汗握る、緊張感が走る一瞬です。)
各楽章からあちらこちらの楽器でテーマが演奏され、別の楽器から違うよ!こ
っちが良いよ!と否定されながら進んでいく第四楽章。なかなか理想にたどり
着けず、暗中模索を続けながら、今風の表現で言えば、とうとう「切れて!」
大不協和音で始まります。一度はうまく動き出すのです(合唱の方々以外にも
ここまでじっと我慢して座り続けるピッコロ奏者がいます。)がまたしても「
切れます」。そこで始めて皆さんご存知の「お風呂〜〜〜〜おおおいんで!」
(O Freunde「おお、友人達よ」)「こんな(くそ!な)音は止めに
しようではありませんか」とバリトンに言葉で切り出されます。
長々と書いてしまいましたが、音楽家として生きて、死に際に「ああ、遅すぎ
た」とワインの到着が間に合わなかったことを悔やみ、「諸君、喜劇は終わっ
た」と言い残したあのベートーヴェンが「歌おうよ!、そして皆、仲良くしよ
うよ!」という世の中へのメッセージを第9に表現しています。
この曲はベートーヴァンの作品中、特別な曲であると私は思っておりますが、
そんな曲の選曲が、話を元に戻しますと、エアフルトのオーケストラ存続の願
いを込めてなされました。
私の在学中での京都市立芸術大学音楽学部・学部長は安部幸明先生でした。ご
高齢の阿部先生と夏休みに荻窪で時々今でもお会いしてお話しすることがあり
ます。安部先生は邦人作曲家でひょっとしたら最高齢の方かもしれません。そ
の先生の尊敬する作曲家はバッハとベートーヴェン。理由は偉大な作曲家は沢
山居るけれど、彼らの作品には愚作が少ない、のだそうです。確かにどの職業
を選択したにせよ、自分自身の仕事には調子はつき物です。最先端技術ののコ
ンピューターでさえ、原因不明の誤作動や不調をきたすことがありますから、
人間のすることでうまく行かない、気に入らない事はしょっちゅうあるのが普
通です。そんな中で作曲家でいらっしゃる阿部先生のお言葉、同業者として羨
望の目でバッハとベートーヴェンをご覧になっていらっしゃることは、私には
充分納得がいきました。
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■ オーボエ演奏会のお知らせ
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「辻功、水間博明、大竹淳子 トリオリサイタル」
ドイツで同時期に学んだ仲間が、楽しいフランス音楽のトリオを演奏!!
2月17日19時開演 東京のドルチェアーティストサロン
http://www.dolce.co.jp/concert_tokyo.html#trio
入場料:\3,500 学生\3,000
(読者特別割引 500円引き 2月10日までにメールでご連絡下さい)
contact@oboeinfo.de
ご予約・お問い合わせ:ドルチェ楽器 管楽器アヴェニュー東京
TEL 03-5909-1771 / e-mail tokyo@dolce.co.jp
2月19日19時開演 大阪のドルチェアーティストサロン
http://www.dolce.co.jp/concert_osaka.html#mizu
入場料:一般 \3,500(学生 \3,000)
(読者特別割引 500円引き 2月10日までにメールでご連絡下さい)
contact@oboeinfo.de
ご予約・お問い合わせ:株式会社ドルチェ楽器 大阪店
TEL 06-6377-1117 / e-mail infod@dolce.co.jp
プログラム:
モーツァルト ディヴェルティメントKV252
マックス レーガー ロマンス
フランセ トリオ
高橋丈人 ファンタジー
ラフマニノフ プレリュード
プーランク トリオ