菊池明彦のオーボエの話 - 6 -


ヨーロッパ楽譜屋探訪


昨年(1998年)ウィーン・ベルリンを訪れた際に寄った楽譜屋3件についてのお話をしましょう。

目次: 1.ドブリンガー(ウィーン) 2.RIEDEL(ベルリン) 3.BOTE& BOCK(ベルリン)


1.ドブリンガー(ウィーン)

 出版社としても有名なこのお店は、かの有名なシュターツオパー(国立歌劇場) のあるケルントナー通りの裏3本ほどホーフブルク側に入ったDorotheer gasse にあります。

 大きく3店に分かれていて横に並んでいます。向かって左から普通のお店、中古楽譜屋、CD屋ですが、昨年行ったときは中古屋は改装中でCD屋の奥にあったような気がします。

 まずは、普通のお店から。

 入ったすぐには左にレジ、その周辺はもう色々がグッズがあります。絵葉書、ネクタイ。
 思ったより狭いと言うのが印象です。ヤマハ渋谷店の楽譜売り場と同じくらいでしょうか。

 ちょっと奥に入ると、左側にスコア、正面と右側には引き出し型の棚に各種楽譜が入っています。ヨーロッパの楽譜屋は自分で楽譜を出せなく、店員に何々が見たいと言って持ってきてもらうと聞いていましたが、ここはもう自分で見れるとも聞いていて、実際そうだったので安心しました。

 棚から木の板の上に乗っかった楽譜を近くのテーブルに持っていき、ばさばさとかなりの勢いで飛ばし読み、ちょっとでも「おっ」て思ったものは買う候補に積んでいきます。

 スコアは別としても、室内楽の楽譜がここだけでなくベルリンでもみんな横に寝かせて棚に入っていました。楽譜を立てて売るのは日本だけなのでしょうか?

 とにかく、朝10時につくようにして、とにかく全部見る!を目標に片っ端からみました。

 で、やはりオーボエを中心にソロ、室内楽と言う風に見ていき、確かになんだこりゃ?と言うのもたくさんあり結局あまりたくさんは買えませんでした。

 ドブリンガーってこんなもん?と思ったのでした。全財産はたいても(というのは大げさですが)、これはと思うものは全部買おうと思っていたのですが。

 昔中学生くらいの頃、銀座のヤマハに行けば世の中にある楽譜はすべてあると思いこんでいたのを思い出しました。

 でも前々から欲しかったスコアを見つけました。
モーツアルトの交響曲40番なのですが、クラリネットが入っていないバージョンです。当然Getです。

 それからスコアの棚も、ぱっと見、銀座ヤマハより少ないと思うのですが、見たことも聞いたこともない作曲家や曲のスコアがありました。やっぱりYAMAHAとかだと、売れ筋?しか仕入れないのでしょうか。

 量に関しては、どっか倉庫でもあるのでしょうか?さすがに聞けませんでした。


次に中古楽譜屋です。

 奥の薄暗い部屋にロッカーのようなところにがありそこに楽譜がまたしても横に寝かせて入っています。

 当然片っ端からチェックです。

 ここでも以前から欲しかった物がなぜか見つかってしまいました。 Haydnの単なる木管6重奏なのですが、今までは見つかる気配すらありませんでした。

 ところが、「あ!」と見つけてしまいました。大事にとっておいて、これは他の客に渡すものか!と思ってみていくと、あららら、同じ楽譜があっちこっちから続々と見つかります。なんだぁ??

 他の色々なところを見ていくと、学生がレッスンで使ったようなエチュードや曲がどんどん出てきます。色々な書き込みがしてあります。この書きこみを勉強するために買っていく人もいると聞いてはいましたが、このことだったのです。
 ちょっと感動。ということはこの曲も室内楽の課題曲にでもなっているのかなと思わず想像。

 でもここにあるって言うことは、レッスン終われば売っちゃうのかなぁと思うと複雑な心境。記念に取っておくというのはないのか??

 でもこれって、大学の時に一般教養の本とかを先輩とかから譲ってもらったり、後輩にあげていたのと同じかな。ほんとはあげたいんだけど再履修なんでまた使うんで・・・という人もいたっけ。そこに中古屋という商売はからんでなかったけど。

 ということで、その1冊だけをGet。やはり中古屋だけあって、品揃えは少なく曲も超マイナー。

 で、CD屋。日本のCD屋との大きな違いは、ビニールが貼ってないこと。そのままぱかって開けられる。開ける人はいませんでしたが。

 昔日本で輸入品がかなり高く売られ、海外の輸出業者が怒っていましたが、理由は物流コストや人件費が高いだけでなく、日本人はきれいに包装されていないと買わないので、梱包しなおしたりするというのがあるとのこと。輸入品CDもあのビニールがなければもっと安くなるのでしょうか?

  いかにもウィーンというワルツ・ポルカのCDもあり、このノリは日本の観光地と同じです。温泉饅頭・・・

 で、ここで、ウィンナオーボエのCDがあったので恐いもの見たさで1枚買いました。

 家に買って聞いたら、ほんとに恐かったです。演奏者の経歴を見ると、ウィーン響で吹いていたとあるのですが、いくらなんでも・・・。
 以前に買った今のウィーンフィルのTopの人のモーツアルトのコンチェルトがあるのですが違和感が全くなかったのに、これはいくらなんでも・・・初心者??とも思えるような演奏。いや、これは自分がウィンナオーボエをまだよく理解していないんだと言い聞かせて、以降このCDは聞いていません。

  CDといえば、今回の旅行ではウィーンフィルを4日いたうち2回聞けたのですがマゼールがマラ5を振ったコンサートでは、ロビーでマラ5のCDが売ってました。日本だけの商売かと思ってましたが案外元祖はこっちなのかもしれませんね。

 脱線ついでに、このマラ5のコンサートが終わって、現地の日本人の友人と待ち合わせをしていました。終わった後のムジークフェラインの前はやたらにぎやかで金管アンサンブルなどもやっていてかなりの時間人がたむろしていたのですが、レヴァインと3大テノールのポスターのそばで、中年の女性群が、
「あら、これ4大テノールだわ」
「そうそう、知ってる!」
という会話が耳に入って来ました。 レヴァインが何する人か知っているのでしょうか。

あ、ちなみに、日本語で言ってました。そう、ウィーンは日本人旅行者がとても多くウィーンフィルの定期はあまりいないにしても特別演奏会であれば石を投げれば日本人に当たるでしょう。僕のボックスは8割がた日本人でしたし、立ち見にいたってはここは日本かと錯覚してしまうほどです。シュターツオパーの立ち見券に並んでいたのも大半が日本人。もちろん観客全体から見れば日本人は少ないですけど。

 で、そうこうしているうちに待ち人はなかなか来ず人影もまばらになった頃マゼールとそのマネージャーらしき人が目の前をすーっと歩いて通って行くのです。
 今でもあの時サインをもらわなかったのを後悔しています。 後ろのほうで、おばちゃん連中に囲まれてサインをしていたというのに。で、向かいの喫茶店に入っていったようでした。

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2.RIEDEL(ベルリン)

 ここは、旅行会社の人に、世界最大の楽譜屋ではないかといわれました。

 場所は、U15の終点Uhlandstr.から歩いてすぐ。Uhlandstr.とLiezenburgerstr. の角で、Zoo駅からも歩いて行けます。
 ちなみにZoo(ツォー)駅は文字通り動物園の目の前です。ここは、西ベルリンの中心地。間もなくポツダム広場がドイツの中心になりますが、まだこちらがメッカです。

 別な言い方をすればこれまた有名なクーダムの一本奥に入ったところといってもいいでしょう。

 店の左側にはリコーダーなどの楽器類がありました。そして右側に楽譜。 ここは、どうやらお店の人に頼まないと楽譜は出してもらえないようでしたので、頼んで出してもらいました。

 ここは結構量はありましたが、世界最大というにはちょっと物足りない気もしました。
 かなりの長時間この日はここで費やしました。Nachst(aはウムラウト、ネーヒスト、英語のNext)というのですが、発音が怪しいと思われたのか、Next?と聞き返され、もう英語でいいやということで、見終わったから次の出してくれと何回も店の人に頼みました。

 そう、このお店にはとても大きな犬がいました。置物かと思えるくらいじっとしていてふっと動くとびっくりします。一生懸命楽譜を見ている下で寝たりしているんです。

 たまに店内をその犬がうろうろするのですが、のっしのっしという感じで見ていると楽譜探しで疲れている目が休まりほっとします。

 最初のうちはひげのおじさんが楽譜を出してくれていました。この人は話し掛けやすそうでよかったのですが、途中で忙しくなってどこかに行ってしまいました。でも結構このお店の中では偉い人のようでした。

 で、黄色い服を着た人にNEXTを言おうと思うのですがなかなかこっちを向いてくれないのです。何かやっている最中に次のを見たいと言えない小心者ですから目があうのを待っている感じです。

 この店は実は一発では見つけられませんでした。今から思えばなんでかな?とも思えるのですがなぜか回り道をしてしまいました。

 そう、この近辺はとにかく歩いている人が少ない。確かに平日の昼間みんなオフィスにいるからからなのかもしれませんが、がらんとしています。閑静な住宅街?のような気もしないでもない雰囲気です。

 この日頑張ってもう一件(3で紹介する店)に行こうと思ったのですが、コンサートの時間もあり挫折して帰りました。

 その時お金があまりなかったので初めてVISAカードによるキャッシングをしました。カードでお金がATMから出るなんて当たり前ですがその時は妙に感動しました。

 で、お金を下ろした後目の前になぜか大きなトラックが止まっています。 よくみると、バレンボイム指揮、ドイツシュターツオパーと書いてあります。なんでこんなとこ止まってるんだ?と思いました。

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3.BOTE & BOCK(ベルリン)

 最後にここを紹介します。

 この日は大雨でした。で、この日の予定は、BOTE & BOCKに行き、あの有名な? 100番バス(普通の路線バスですが実質ルートが観光バスになっている)に乗って戦勝記念塔ジーゲスゾイレ・そしてブランデンブルグ門を見てそのまま東側見物 (と言っても泊まっていたのが東側だったけど)のはずでした。

 ハプニング?続出の日でしたが、まずは本題の楽譜屋さんのお話をしましょう。

 この楽譜屋さんはZoo駅から歩いて10分程度のとこだったと思います。大雨だったのでもっと長く歩いた気もします。ベルリン芸術大学のコンサートホールらしき?ところの前に立地しています。歩いているとそのまま通り過ぎてしまうような小さなお店でしたが、僕にとっては一番印象深い楽譜屋になりました。

 入ると、右の奥のほうに楽譜が棚に入っています。最初に書いたようにここも楽譜は横に積んである形になっています。順番はどこも同じですが基本的に編成順です。木管2重奏、Trio,・・・。その時知った略号にm.sと言うのがあります。

 店の人にこれはなんですかと聞いたら"Two hands" と両手でピアノを弾くゼスチャー付きで教えてくれました。何の略かついでに聞いたのですが知らないとのこと。ドイツ語ではなさそうです。強いて日本語で言えば2手(つまり一人?)でしょうか。

 楽譜屋で何がつらいかって、ずーっと立っていることです。幸いにもRIEDELは椅子がありましたが、ドブリンガーもここもありません。しかも丸い机が数個あるだけで一体どうやって見ろって言うんだ?という感じですが、机が空いていただけでもラッキーで後から来た日本人らしき人はかなり苦労していました。

 ここで一番たくさんの楽譜を買ったかもしれません。最後にカードのサインをするのが恐かったです。それだけ買ったのでというのはいい訳になりませんが、日本に帰って整理しているとあ、これダブってる!と言うのがありました。ウィーンで買ったのにまたベルリンで買っちゃったというパターンです。

 でも清算のとき、お店の人が電卓で値段を足していくのですが、とてもいい人で2〜3冊ただにしてくれました。ドイツ語で言われたのですがわからないという顔をすると" Present for you ! " というのでさすがの僕もわかりました。

 それからモーツアルトのシンフィニーコンチェルタンテの木管8重奏版(SHOTT) の値段を見て、店の人どうしでなにやら相談しているのです。自分たちで値付けをしたんだろうと思うのですが、この楽譜はこんな値段がついているおかしくないか?と言うような雰囲気です。

 で、僕に向かってほんとにこの値段でいいのか?と聞くので、悲しそうな顔をして欲しいから仕方ないんです、でもこんなに高いんですねぇという雰囲気をかもし出しながら、わかっているけど買いますというと、200マルクする楽譜を、 150マルクと言ってくれました。帰国後、アカデミアでこの楽譜を見つけて、 なんだぁ日本でも買えたじゃない!と思って値段を見ると3万円を越えていました。ベルリンだと半額かぁ・・・

 そう、このお店で英語が普通にしゃべれる人は女性の店員一人しかいませんでしたが、そのとき自分の英語力のなさを痛感しました。特に前置詞の重要性がわかりました。

 置いてある楽譜を自分で勝手に見ていいのかと聞きたかったのですが、自分自身で?というのに、なんとかmyselfだったけど前置詞はなんだっけなぁ・・・と思って店の人と格闘すると"by yourself? OK!" といってくれました。byなんですねぇ。

 他の言い方で何とか逃れようとしたのですがどうしても出てこないのでとにかく困りました。

 清算時、カードの支払いなので最後にサインをすると照合もせずに、「われわれには、あなた方の文字は全く読めません」というようなジェスチャーをされました。

 この店でうーんやられた?と思ったのは、
「14:00 10分前にこの店は14:00に一旦閉まる。開店は16:00だ」
と急に言われて、慌てながらも
「あと10分ありますね!」
と言ったら
「それは清算まですべて終わっての時間だよ」
と言われて、猛スピードで最後の棚のチェックを行ないました。結果的に数分過ぎましたが嫌な顔一つされずよかったです。

このあとお店を出て、雨の中100番バスの停留所を探し始めます。頭の中は「ブランデンブルク門」で一杯で、なぜかBachのブランデンの3番がずっと鳴っていました。

 以下はまた余談です。
 バスに乗る前に一応有名どころを押さえないとと思い、オイローパセンターに寄ってインフォメーションセンターのお姉さんに気合を入れて、"Wo ist WC?" と聞くと 英語でいきなり返事が返ってきました。ドイツ語わからないやつと一発でわかったらしいです。(有名どころと言うのはWC(トイレ)ではなくオーローパセンターです)

 結局公衆トイレはない、店に入ればあるとのこと。今回旅行で苦労したのはトイレがあまりないこと。トイレにいく回数はかなり少ない方だと自負?しているのですがそれでも少ないと思いましたね。パチンコ屋もないし。といいつつも汚いトイレを自力で見つけましたが。参考に手数料ただの両替やの前です。(わからないかな・・・)

 でもって、ヴィルヘルム教会も見ておきました。

 100番バスに乗って何が悲しいって、窓が曇って外が見えない・・・外の見えない観光バスくらい悲しいものはありません。かろうじてジーゲスゾイレがぼやけて見えました。

 この日最大の?ハプニングはこれから起きました。バスがやたらに進むのが遅いんです。で、地図を見ながら走っているのになぜか違う道を走って行くのです。

 一体何が起きた?と思ってパニックしていると大渋滞に巻き込まれ、まわりの人たちも地図と違うと言うことがわかって途中で降りる人や友達どうしで、おかしい!と言いあっているようです。

 気がつくと見覚えのある風景、そこにはあの黄色いカラヤンサーカスが・・・。ベルリンフィルハーモニーホールは、100番バスの路線とは関係ないのに・・・。

 ポツダム広場であきらめてとうとう僕も降りました。
 雨の中、傘を持ってかなり重い楽譜を持ってかばんを持って、ついでにカメラを持ってああ、日本人だなぁと思いつつ、ブランデンブルク門に歩いて行きました。

 数分歩いたとこで、とうとうきたぞ!この門に!。ちょっと感激でした。
 ドイツ統一前にも見ていればまた違った感動もあったかもしれません。

 で、そこで見たものはある貼り紙でした。ドイツ語はよくわからないのですが
「本日、8:00〜20:00 労働者決起集会のためブランデンブルク門の下を通る道は通行止めになります」
と言うようなことが書いてありました。
「なぜよりによって今日なんだぁ?」

 テントがあって、そこでマイクに向かって労働者代表みたいな人がずっと演説していました。すごい人だかりでその対策のためか、その横を馬に乗った警察官の男女がさっそうと闊歩しているとこがまたよかったです。


ここまで書くと楽譜屋と関係なくなりすぎたのでひとまずこの辺で。

  ご意見、ご感想などは私(本橋)まで

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