- 本特集記事の出典は、株式会社音楽之友社 発行のバンドジャーナル:1984年4月号です。
- 本特集記事の著作権は、株式会社 音楽之友社様にあります。
- 本特集記事を当ページで掲載する事は、株式会社 音楽之友社様のご了解を得ております。
- 転載、複製はお断り致します。
オーボエのリードの削り方(スクレイピング)には大別すると二種類あって、ロングとショートのタイプに分かれると思います。
ロングの方は、いわゆるW型のタイプで、「アメリカン・スタイル」といっています。ショートの方には、U型とV型があって「ヨーロッパ・スタイル」です。
私がこれから述べる調整法は、このU型(もちろん他のタイプでも共通性がありますが)のリードについて、そして編集部の希望で、いきなり救急病院に入った患者さんのように、すぐ治療に入りたいと思います。
それでは、さっそくメスを取ってください。といっても、ここではリード用のナイフということになりますが、できれば調整用(仕上げ用)として、図−1のようなタイプのナイフがほしいですね。先端が細くなるので、いろいろなテクニックが使えるということです。
それからプラーク(リードの中に挿入するもの)ですが、平板のものより、図−2のようなものを用意してください。黒たんか、黒のエボナイト・プラスチックがよいでしょう。
図−1:ナイフ | 図−2:プラーク | 図−3:リード拡大図 |
本橋注:図中の文字は 「姫くり小刀」です。 |
(A)削った当初はよく鳴っていたのに、何日かたって重くなってしまった
こういう場合は、いつも新しい材料の時に起こることで、もう古くなってしまったと、よく錯覚をおこしがちなのですが、吹く前に、削った当初と同じくらい水に浸してあげること。それでも鳴りは悪くなってくると思いますが、そうしたら、図−3の(a)の部分を、センターを背骨のように意識しながら、左右垂直に削ります。そして(c)も少し削ってください。薄くすることによって、(b)の面積が少なくなるからです。
(B)低い音が出にくい
こういう状態は、まだ全体が厚いか、開きが狭すぎるか、固いケーンで、スクレイプが十分でない場合です。
図−3の(g)の部分、つまりU字の境目の部分を、はっきりさせてあげるだけでも、かなり低い音が出やすくなるのですが、(a)の根元寄りのところを薄くし、勾配を低くするとよいでしょう。
(C)高い音が出にくい
これは(B)の逆になるわけですね。開きを狭め、(a)の部分の、先端寄りを削るわけです。(b)のハートの部分も薄くするとよいでしょう。
(D)レガートがかかりにくい
厚い状態では、レガートがかかりにくいのは当然なのですが、(h)は少し残すのですが、(i)は薄くします。(c)のラインを後退させるようにしながら、なで肩にするように削ります。さらに(e)にちょっとナイフを入れてみます。低い音を出しやすくするテクニックと似ています。
(E)スタッカートが出にくい
特に低い音の、スタッカートを出しやすくするには、開きが必要であることと、材料が柔らか過ぎると出にくいのは、いうまでもありません。(c)の段差を少なくすること、(b)の薄い部分が広すぎないように、強く低い音を吹いた時、音がひっくり返るようでしたら、先端をカットしてください。
(F)ピアニッシモが出にくい
固い材料ですと、音がはっきりしてしまうので、ピアニッシモの感じが出しにくいのですが、(B)の項に似た削り方になります。開きは強くない方がよいでしょう。
(G)フォルテが出ない
まず開きが狭いことが考えられます。十分な開きが得られない場合は、針金を使うことをおすすめします。次に(a)と(b)の段差があり過ぎると十分な鳴りが得られません。(a)を削るのはもちろん、(c)を滑らかにするようにします。あまり柔らかいと、フォルテの音の感じにはなりません。
(H)暗い音にしたい
「太くて柔らかい音にしたい」という目的で、厚いまま無理をして吹いている例がよくあります。緻密で柔らかい材料を、全体がよく鳴るようにすれば、豊かで太い音になります。
鋭い音が出ないように、(b)のハートを大事にし、ある厚さを保ちながら、吹きやすく薄くするには、(d)の部分を、外側に向かってナイフを入れます。(a)にナイフを入れるのも、斜めがよいでしょう。(b)の残り具合で、音色がかなり変わってきます。
(I)明るい音にしたい
緻密で固めの材料ですと、自然と明るい音になるのですが、段差とハートを意識しないで、(a)も先端寄りの方を薄くし、勾配をきつくします。
(J)寿命を長く使いたい
これはオーボエ吹きの夢なのですが、針金を使うことと、二、三本でローテーションを組むことです。修正技術が進むと、かなりよいリードを、長く楽しめるようになるでしょう。
これで救急病院も休院になりますが、よいリードの目安として、クロウイング(少し深めにくわえて、烏(からす)の鳴き声のような音を出すこと)をやりながら、削り具合を聞き分ける習慣をつけましょう。
その他の留意点
○リードは生き物
材料が新しいほど、大きく変化していくので、変化が落ち着いたあたりで完成させるのが、いちばん寿命の長く使える方法です。リードは湿度でも変わってくるので、生き物だと覚えておいてください。
○最良のケーンにはテクニックは不要?
健康人には、医者が要らないように、最高によいケーンだったら、今まで書いたテクニックは、すべて考えなくてもよいくらい素晴らしいものです。単に薄くしていくだけで、それなりによい音になるから不思議です。
○自分が薄目に感じる時が最高の音
永久に、自分の生の音は聞くことができません。それは、自分には、直接耳に伝わってくる音があるので、他人が聞くより、鋭く聞こえるようです。ですから「ちょっと薄いかな?」と感じるくらいの時、多分ちょうどよいと思います。
○雑音を気にするな
できたてのリードには「シャーシャー」する感じや「ブツブツ」した感じがすることがあります。これは、自分に感じるほど、相手にはそんなに感じないものです。何日かすれば、なくなると思いますが、離れている聞き手のことを考えれば、全然気にすることはありません。日本人は、この雑音を気にし過ぎるのではないでしょうか。
○音色と発音はアンブシュアでも変わる
今回はリードの修正のみにしぼりましたが、アンブシュアによって、暗くも明るくもなり、また発音にも関係してきます。そのことに関しては、また別の機会に述べることにして、とにかく「いい息してる?」という言葉で、筆を置きたいと思います。
終わりに一冊の面白い本を紹介しましょう。ヨーロッパとアメリカの、有名プレイヤーのリードの写真を、逆光写真や各サイズも変えて、82例載せてあります。参考にしてください。
「Oboe Reed Styles」 Theory and Practice
David A.Ledet
Indiana University Press
|
|
本橋注:これらは本ページの挿絵です。 この2つの拡大写真を写真集−5のページに掲載しました(14KB)。 |
ご意見などをお聞かせ下さい。こちら(私)まで。
[このページのTOPへ]
[ダブルリードの歴史]
[リードって何だ:目次へ]
[本橋家トップページ]