ダブル・リードの歴史・・・鈴木清三



 ”音”は何らかの作用で、空気の振動を起こすことによって発生する。リードを使う楽器は、それによって振動を起こさせる。ダブル・リードは向かい合った2枚の植物(リード)の開閉する作用により、楽器の中に波をつくるのである。その振動波の作用については、ここでは省略しよう。

 現在、ダブル・リードで演奏される楽器としては、オーボエ、イングリッシュホルン、オーボエダモーレ、バスーンそしてダブル・バスーンがその主なものである。これらはオーボエ族の製造法が機械化されて進歩したものであるが、リードの歴史を語るには古代までさかのぼって、現代に到るまでの楽器の変遷を探る必要があるだろう。
 古代以前の時代は骨を素材として管の楽器がつくられていた。しかしリードを使って音を出すことまでは思いつかなかったようだ。木の葉を2つに折って口にくわえ、ピーピー鳴らす程度に過ぎなかったらしい。

 古代に入ってダブル・リードを使った楽器が見られるようになったが、エジプトなどで発見されたものは植物の茎を楽器の胴体とし、その一端を潰して、その部分をダブル・リードとして振動させていたものである。(図−1)

 これは楽器とリードが一体のものであり、そのリードの部分がしおれてしまうと、楽器自体も使えなくなるという不便さがあった。しかし生活の智恵で、楽器の本体とリードの部分を分けてつくられるようになった。これは楽器の一端にリードを差し込むという、現在の楽器と同じようになったのである。このことは、もっと上質な楽器のための材質が吟味され、そして製作の技術も向上したためである。またリードも、その作製により材質や削り方もより進歩した。
 古代ギリシャでは、「アウロス」という楽器が見られる。これは絵や彫刻でよく見ることができるが、現在、完全な形のままでは発見されていないらしい。これは2本の管をダブル・リードで同時に演奏されたものだが、後にエジプトでそれを1本にした「モナロウス」(図−2a)という楽器がつくられている。
図−1:古代の
ダブル・リード
(エジプト)
図−2:a=モナロウス
b=チャラメラ 
c=ひちりき

図−1:古代のダブルリード 図−2:モナロウスなど


 中国では「クワン・ツー」という竹製のリードで演奏されるものがつくられており、イタリアでは「チャラメラ」(図−2b)と呼ばれるものがある(そばやのチャルメラも同じもの)。このリードには葦(よし)が使われ、その先端をこてで温めて楕円形にしたダブル・リードである。

 雅楽で使われている「ひちりき」(図−2c)も籐をせめという竹を巻いて、手頃な開きを保たせているダブル・リードを使っている。

 韓国で入手した「ピリ」という楽器も同族のものであり、ひちりきと同形のものである。これらのものはチャラメラも含め、シルクロードを経て、はるばる東洋に渡って来たものである。
 さてイギリスの軍楽隊がスカートをはいてバッグパイプを演奏している姿をテレビなどでよく見かける。これは皮の袋の中にある1枚のリードの、複数の笛で袋を押すことによってハーモニーをつくり出し、外に出ているダブル・リードを口で吹いて重音を出すもの。今日にいたるまでの、ダブル・リード楽器の進化に大きな役割を果たしている。

 中世につくられた楽器の中に「ショーム」がある。高音のものが「トレブル・ショーム」(図−3a)、低い方が「テナー・ショーム(またはアルト・ポンパー)」(図−3b)と呼ばれ、前者は現在のオーボエにつながる楽器であり、後者がバスーンへ移行していった楽器といえよう。。

 16・7世紀までこれらの楽器が使用され、また現在のバスーンのように、リードと楽器との間に金属の「クルーク(またはボーカル)」を持った「ラケット」という楽器もある。そしてバスーンの前身として「カータル」という楽器がある。

 この頃に「クルムホルン」(図−4a)という楽器が使われていたが、今までの楽器が口で直接リードを吹くのに対し、クルムホルンのダブル・リード(図−4b)は楽器の中に位置しているので、唇は直接リードにふれないのである。

図−3 図−4 オーボエ・ダ・カッチャ
図3:ショームなど 図4:各種リード


オーボエ・ダ・カッチャ

本橋注:
これは挿絵です。


コントラファゴット  (本橋注:これは挿絵です)
コントラファゴット
本橋注:図−3からこのファゴットまでの拡大写真を
    写真集−4のページに掲載しました(34KB)。


 バロック時代から現代までのオーボエ族の楽器については、接する機会が多いと思うのでここでは省略する。バロック時代のピッチA=415くらいから現在の楽器のA=440、または444くらいにまでピッチが変化してきている。むろん楽器自体のピッチを上げるために内径の太さや長さも変化してきているが、リードもそれぞれの楽器に合わせて、その厚さ、長さ、幅やリードの開き具合など、よく考えてつくらなければならない。
 リードの材料は籐を使用する。日本でも海辺に生えている天然の籐を見ることがある。しかし自然に生えているものはオーボエやバスーンには、質が悪くて使いものにならない。リード材のケーンは良質の土地で、人口的に(本橋注:人工的の誤記と思われます:原文は人口的となっています)栽培されるものであるが、日本のように湿度の高い地域では、その育ちが早すぎて繊維が荒くなるのでよくない。一般的には地中海沿岸に近いイタリア、スペイン、フランスのものがよいとされている。中でも特に、南フランスのカンヌに近いフレージュのものが最もよいといわれている。


 ”ダブル・リードをつくる”ということは、奏者にとっては大変な仕事である。リードのつくり方が上手でないとよい音色、よい音程、そしてよいコンディションで演奏することができなくなってしまう。そして”よいリードをつくる”には熟練を要する。


 リードのケーンは農園で2年間くらい育てられ12月頃から刈り取られ、その後、3夏(3年間の真夏)に太陽の下で乾燥される。もし刈り取る前に霜に合った場合、その年のケーンは全滅することになる。

 リードの材料の厚さは人によって多少の違いはあるにせよ、厚い部分で0.6ミリ、薄いところで0.5ミリとなっている。削られて演奏されているリードのいちばん薄い部分は0.1ミリから0.2ミリくらいで、材料の質がよくないと、その振動の状態は至極悪くなる。だから良質の材料を入手することが大変重要である。


 日本でも音楽家が増えているのはお分かりだろう。管楽器奏者も近年、とみに増えてきている。これは日本だけの現象ではなく、全世界的な現象である。フランスでは地域開発などのために栽培地が減っており、需要と供給のバランスが悪化してきている。そのためか最近の材料は2年を待たずに刈り取られ、乾燥の期間もつめられているような気がしてならない。しかも最近では高周波乾燥などという、電気的な乾燥も行われているときく。以前ならば3本くらい削れば1本は使えたのに、最近は10本削ってもよいものを見出せないことが多い。
 リード楽器の奏者たちのあいさつは「よいお天気ですね。よいリードできた?よい材料ないかなあ!!」である。いよいよフランスに土地を買って、自分で栽培しなければダメなのだろうか。

 [ 参考資料=A・ベインズ/奥田恵二訳、「木管楽器とその歴史」(音楽之友社) ]

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