- 本特集記事の出典は、株式会社音楽之友社 発行のバンドジャーナル:1984年4月号です。
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木管楽器の命、リードについて今月もお話ししましょう。
先月号の<シングル・リード編>に続いて、今月は<ダブル・リード編>。オーボエ、イングリッシュホルン、ファゴット、コントラファゴットなどの、上下2枚が組み合わさって1組となるリードをダブル・リードと呼びます。
材料となるのはシングル・リードと同じ葦(学名=arundo donax)なのですが、その産地によって茎の直径や厚さが異なります。地図をご覧下さい。これはダブル・リードのメーカー「グロタン」の葦が栽培されているヴァール県(斜線部分)の位置を示したものです。そして、同じ葦でも、オーボエやイングリッシュホルンなどに適する細めのものはフレジュスからコゴランに至る地域で、またクラリネットやサクソフォーンなどに適する太めのものはコゴランからイエールに至る地域で産するのです。
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ヴァール県は、バカンスや映画祭で有名なカンヌと港町マルセイユの中間に位置する南フランスの地中海沿岸地域で、このあたりには”ミストラル”と呼ばれる特有の乾いた風が(小高い丘から海へと)絶えず吹き抜けています。そして、南フランスの太陽や豊かな土壌とともに、実はこのミストラルが非常に重要な働きをしているのです。
先月号でお話ししたように、よいリード材を生産するためにはまず十分に乾燥させることが大切なのですが、ここで南フランスの強烈な太陽と乾燥した風、ミストラルが大いに役立つのです。いわば南フランスの風土そのものが、良質のリードを生み出しているわけです。
樹液が少ない12月から5月の間に刈り入れられた葦(写真1)は、シングル・リードの場合と全く同様に(1)陰干し、(2)日光乾燥、(3)屋内乾燥と3段階、約2年の間十分に乾燥させられます。そして産地を離れ、各リード・メーカーの手に渡ります。写真2はグロタンの工場の内部で、ダブル・リードはほとんど手づくりで製作されているのです。
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写真1 | 写真2 | 写真3 | 写真4 | |
収穫された葦の葉 や小枝をはらって 束ねる |
リード工場の 内部 |
4分の1に 縦割りする |
長さをそろえる |
ミストラルが 葦の乾燥を助ける |
本橋注:5つの写真の拡大写真を写真集−1のページに掲載しました。 110KBあります。重いと思います。 |
適当な長さに切断されたリード材は、まず4分の1に縦割りされます(写真3)。そして、長さを適当にカットします(写真4)。
これを”かまぼこ型”にするために側面をカットして幅をそろえます(写真5)。さらに、内側を削って、かまぼこ型の段階を終わります(写真6)。
写真7をご覧ください。上段左から「丸材」「かまぼこ型」「舟型」、下段左から「プロファイルド型」「半完成品(写真にはない)」「完成品」という順になっています。ダブル・リードの場合は、これらがそれぞれ独立した「製品」として扱われますので、どの状態のものでも買うことができます。つまり、各自のリード作製能力に応じて、適当な段階からリードづくりをすることができるようになっているのです。
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写真5 | 写真6 | 写真7 | 写真8 | 写真9 |
側面をカット | 内側を削る | オーボエ用 | シェーパーを用い て形状を整える |
糸巻き作業 (オーボエ) |
本橋注:5つの拡大写真を写真集−2のページに掲載しました(63KB)。 |
例えば、写真8はシェイパーを用いて側面を完成の状態の幅(形状)にカットしている様子ですが、この作業なども、ダブル・リードの場合は、中級者や上級者のほとんどが自分自身で行うことが多いのです。この点が、完成品を買うことが一般的な「シングル・リード」の場合とまったく異なります。
つまりオーボエの場合の糸巻き作業(写真9)やファゴットの場合の針金巻き作業(写真10)も、演奏家自身が行う代わりにここでは熟練した作業員が行い、写真11のような完成品が製作されるわけです。
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写真10 針金巻き作業 (ファゴット) |
写真11 完成品 |
イングリッシュ ホルン (挿絵です:本橋) |
ファゴット (挿絵です:本橋) |
本橋注:4つの拡大写真を写真集−3のページに掲載しました(34KB)。 |
今回は、完成品にするまでの全工程の詳細を示す紙幅はとてもありませんので、詳細は別の機会に譲り(どちらかというと製作作業よりも材料の良しあし自体が重要になってくるダブル・リードということもあって)、リードを生み出す風土について少しばかりお話ししました。(文責=編集部)
「協力・資料提供=ビュッフェ・クランポン(株)」
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