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■ オーケストラの仕事 (オーケストラ奏者は耳が悪い?)
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今回は私の職業であるオーボエ奏者、或いはオーケストラ奏者の仕事
内容に軽く触れてみたいと思います。
私のオーケストラでの仕事は大きく分けて2種類あります。
1) オーケストラ定期演奏会
2) オペラ、オペレッタ、ミュージカル、バレー
オーケストラ定期演奏会は日本のほとんどのオーケストラが行っている演奏
会と同じで、ある時はソリストが来て協奏曲をオーケストラと共演します。
ほとんどは交響曲、或いは交響組曲とかのオーケストラの曲がメインに選ば
れ、我々はステージで演奏することになります。それに対してオーケストラ
ピットと呼ばれているステージと客席の間にある低く掘られている場所での
仕事があります。バレー以外のオペラ・オペレッタ・ミュージカルは伴奏の
要素の強い仕事になります。バレーの場合はステージ上のソリストは音楽を
演奏せず踊るわけですから、音楽的にはオーケストラが中心となります。
オーケストラピットでの仕事は聴衆の視覚の邪魔にならないように暗く、各
譜面台にそれぞれ小さな電気が設置してあり楽譜をかろうじて読めるように
してあります。歌劇場のオーケストラ奏者の宿命と言えば大げさですが、こ
の光の影響で目が悪くなる人は多いようです。一般の方には思いもよらない
事かもしれませんが、目の他に耳も悪くするオーケストラ奏者が多いのです。
金管楽器や打楽器が思いっきり近くで演奏すると耳への負担は相当なもので
す。長年オーケストラで仕事をしている人間の聴覚を検査すると高音部を聞
く能力が著しく低下しています。これは専門家に言わせると耳が悪くなった
と言うよりも長年の成果で自動的に高周波をカットし自分の耳を守っている、
そうです。
今週は月火水と3日続けてオーケストラ定期会がありました。プログラムは
Mozart作曲 : Maurerische Trauermusik c-moll KV 477
マーラー作曲 : 交響曲第9番
の2曲でした。モーツアルトの方は4分くらいの短い曲でしたがオーボエ2本
が3度のハーモニーをピアノから開始する神経の疲れる曲で、マーラーは1楽
章の最後にピアノで1分くらいの(実際はもっと短いのですが)ピアニッシモ
の低音のEの音があり、どんなオーボエ奏者でも精神的プレッシャーの大き
な曲です。技術的な事について今回は取り上げませんが、大編成の金管が思
いっきり後ろから音を出すと大変な耳への負担になります。仲間の耳への配
慮の為に、金管楽器、打楽器が音を小さく演奏すれば、もちろん迫力を欠く
ことになりますからプロのオーケストラとしてそれはしません。私の座って
いるオーボエグループは金管の2段下で一応直撃は免れていますので耐えら
れます。しかし金管のすぐ下に座っているクラリネット、ファゴットのグル
ープはたまったもんではありません。自分の耳を守ろうとすれば耳栓をする
以外に方法は無いわけで、実際に耳栓をしていた奏者もいます。実際に耳栓
を入れて演奏した場合の利点はもちろん大きな音から自分の耳を守れる事で
すが、他の奏者が大きい音で演奏している中でも自分の音が良く聞こえるこ
とです。欠点は、音色間が聞きづらい事。音量のバランスがとりにくい事。
ですが経験でクリアーできます。
本日は意外なオーケストラ奏者の耳に関するお話をいたしましたが、そんな
大きな音の洪水の中に身をゆだねる事がオーケストラ奏者の役得です。これ
は聴衆の方には聞きに来ていただいても残念ながら体験していただける事が
できないことで、申し訳ありませんが、耳に支障が無い限り毎回すばらしい
体験をしながら仕事をしているのがオーケストラ奏者の仕事です。
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